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資産運用の際、どの程度の額を投資してよいか、人の投資傾向が気になることもあると思います。
投資についても預貯金と同じように考え、月にいくら、年間でいくら、と計画する方も多いと思いますが、まずは自身の貯蓄額を把握し、そこからいくら投資へ回せるか考える必要があります。
本記事では日本人の投資傾向をもとに、自分にとって最適な資産運用の割合についてお話しします。
日本人はどのくらいを投資に回している?
日本人で積極的に投資に取り組んでいる人はどのくらいいるのでしょうか。各種統計データを基に、国際的な比較や、年代・世帯別の比較などを紹介します。
世界的に見ると日本人の投資割合は低い
日本銀行調査統計局の「資金循環の日米欧比較(2023年8月25日)」によると、日本・米国・ユーロ圏では、金融資産の保有割合に大きな違いがあります。
日本は現金・預金の割合が半分以上を占めているのに対し、株式・投資信託などリスクの高い金融商品への投資割合は15%程度に過ぎません。
一方、米国では、株式・投資信託への投資割合が現金・預金を大きく上回っています。
ユーロ圏は米国ほどではありませんが、株式・投資信託への投資割合は現金・預金と同程度です。
日本人はリスクのある金融商品への投資に対してやや後ろ向きであり、安全志向であることが読み取れるでしょう。
年代・世帯によって投資割合は異なる
金融広報中央委員会の「令和4年家計の金融行動に関する世論調査」によると、世帯人数や年代によっても、投資割合には大きな違いがあります。
【単身世帯】
預貯金 (ゆうちょ銀行の 貯金を含む) | 金銭信託 (ヒットを含む) | 積立型保険商品 (生保・損保) | 個人年金保険 | 債券 | 株式 | 投資信託 (MRF、MMF、 REITなどを含む) | 財形貯蓄 | その他金融商品 (金貯蓄口座、 金融派生商品など) | いずれも保有 していない | |
20歳代 | 91.8 | 5.1 | 13.1 | 10.9 | 4.0 | 17.5 | 20.8 | 8.0 | 4.4 | 8.0 |
30歳代 | 95.1 | 4.3 | 20.1 | 19.1 | 5.2 | 25.9 | 31.2 | 5.9 | 8.0 | 4.6 |
40歳代 | 93.5 | 3.7 | 22.8 | 17.6 | 6.5 | 26.2 | 25.3 | 6.2 | 9.0 | 5.9 |
50歳代 | 94.0 | 1.9 | 25.1 | 21.9 | 4.9 | 20.5 | 19.4 | 5.2 | 7.7 | 5.5 |
60歳代 | 97.5 | 3.0 | 30.1 | 21.0 | 9.3 | 26.0 | 26.0 | 3.2 | 6.8 | 2.3 |
70歳代 | 97.2 | 3.8 | 30.3 | 18.9 | 9.4 | 34.1 | 25.1 | 0.8 | 5.2 | 2.8 |
【二人以上世帯】
預貯金 (ゆうちょ銀行の 貯金を含む) | 金銭信託 (ヒットを含む) | 積立型保険商品 (生保・損保) | 個人年金保険 | 債券 | 株式 | 投資信託 (MRF、MMF、 REITなどを含む) | 財形貯蓄 | その他金融商品 (金貯蓄口座、 金融派生商品など) | いずれも保有 していない | |
20歳代 | 94.2 | 10.5 | 31.6 | 22.2 | 5.3 | 22.2 | 22.2 | 8.8 | 5.3 | 4.7 |
30歳代 | 95.8 | 6.9 | 37.5 | 25.3 | 4.9 | 28.5 | 29.8 | 13.4 | 6.8 | 3.9 |
40歳代 | 96.5 | 4.2 | 34.7 | 24.2 | 4.5 | 28.4 | 27.3 | 11.4 | 6.2 | 2.9 |
50歳代 | 96.5 | 5.5 | 37.5 | 31.0 | 5.5 | 31.4 | 26.3 | 15.4 | 7.0 | 3.0 |
60歳代 | 97.7 | 4.2 | 37.3 | 26.9 | 10.3 | 36.0 | 26.3 | 5.5 | 7.1 | 2.3 |
70歳代 | 98.2 | 3.8 | 37.1 | 19.2 | 9.0 | 39.8 | 26.3 | 3.6 | 6.6 | 1.3 |
どちらも預貯金の割合が多い点は変わりませんが、二人以上世帯の方が株式や投資信託へ投資している人の割合は多くなる傾向があります。
貯蓄と資産運用の最適な割合とは
上記のデータで、日本の個人の平均的な投資割合は18.8%であることが分かりました。
しかし、個人により収入も貯蓄額も異なりますので、金額的には人それぞれです。仮に貯蓄の額が同じだったとしても、家族の人数により投資に回す余裕や考え方も異なるはずです。
また、投資で損失を受けたとしても、目標を損なわない範囲であるかどうかという点も重要な要素となります。
まずは貯蓄に優先順位を付けて、どのくらいの資金を投資に回してよいのか判断をしていきましょう。
資産運用に適したお金?貯蓄を目的別に分類
収入・貯蓄を分類し、以下のように優先順位を付けてみます。投資に回すことができるお金は、「(3)使う予定が定まっていないお金」となります。
- (1)教育費・住宅購入費など貯蓄の目的がはっきりしているお金
- (2)生活維持のための非投資用貯蓄
- (3)使う予定が定まっていないお金→投資用資金
順に内容を確認していきましょう。
教育費・住宅購入費など使う予定が決まっているお金
最優先して確保すべき資金は、教育資金や車購入費・住宅購入費など、大切な予定に備えて貯めているお金です。
投資がうまくいけばリターンも大きくなる可能性もありますが、投資益を当て込んで運用し、大幅に減らしてしまうという失敗は避けなくてはなりません。
もし、失ったタイミングが子どもの大学入試時点や、夫婦で老後を迎える時期でれば、非常に危険です。大切な目的貯金は金庫にしまったつもりで保管しておきましょう。
生活維持のための非投資用貯蓄
目的のはっきりしている貯蓄に加えて、生活維持の基盤となる貯蓄もキープしておきましょう。
今や世界中で景気の大変動が起きています。何らかの事情で仕事や収入を失う可能性もゼロではありません。収入に余裕のある人も、運用資金の大幅な値下がりもあり得ます。
生活費の3ヵ月分を目安に非投資用の貯蓄を維持しておくことで、いざというときに備えることができます。
何割貯蓄すればよいかはこちらの記事でも紹介してます。
【FP解説】手取り収入から貯蓄へ何割回すべきか。理想的な割合と人生の貯め時を紹介
使う予定が定まっていないお金→投資用資金
上記の優先順位をクリアした資金が、投資用として安全圏に入るお金だといえます。
ただし投資は元本保証ではないため、消えてしまっても影響はないと思える範囲で判断しましょう。
投資利益が上がった際は使い込まずに再投資をすることで、さらなる収益につながります。利益が利益を生む好循環を心掛けていきましょう。
少額からスタートする資産運用
ここからは少額から資産運用をスタートする方法について見ていきます。はじめは少額から取り組み、慣れてきたら段階的に投資額を増やして、投資割合について考えていきます。
- はじめは少額からスタート
- 段階的に投資額を増やす
- 大きな資金を投入する際は目標を定めて投資額を算出
- その額が資産運用の割合として適正かどうかを検討する
自分にとっての適正な投資割合を見つけていきましょう。
STEP1:はじめは少額から納得できる金額で
金額が少なければ、マイナスになっても大きな打撃を避けることができますので、まず少額からスタートして、投資の世界に慣れていきましょう。
若年層であれば資金に余裕があると思われがちですが、年齢的に収入面のネックもありますし、買いたいものを優先したいという傾向もあるでしょう。
そして年齢の上昇とともに結婚資金の準備や住宅ローンも始まり、そのうち子供の教育関連費に追われるようになってきます。
どの世代にとっても少額からのスタートは恥ずかしいことではありません。周囲に合わせるよりも、自分で納得できる金額や方法から始めてみましょう。
初心者も取り組みやすい「投資信託」
初心者も取り組みやすい投資信託は、100円以上や1,000円以上など、少額から始めることができます。
毎月一定額を購入することで、値上がりすれば含み益が上がり、値下がりしても安くなった価格で多く購入できるというメリットがあります。少額であっても購入を継続することで、無理のない投資に取り組むことができます。
日本証券業協会のデータでも、証券を保有している人のうち投資信託を利用している人は5割を超えていることが分かります。
保有している証券 | うち保有割合 | 保有額 |
---|---|---|
株式 | 80.2% | 「100~300万円未満」22.0% 「500万円未満」73.0% 推計の平均保有額660万円 |
投資信託 | 53.8% | 「50万円未満」23.8% 「500万円未満」75.1% |
公社債 | 13.0% | 国債・地方債・社債 |
※日本証券業協会「個人投資家の証券投資に関する意識調査」の2019年概要による
つみたてNISA(少額投資非課税制度)の活用
毎月1,000円以上の投資信託を利用する場合は、つみたてNISAの利用が可能です。
年間の投資金額40万円の範囲で最長20年間、売却益が非課税扱いになります。証券会社の取扱い商品の中から、長期・分散投資に適した投資信託を選択できます。
貯蓄を使わない「ポイント」投資
投資にはチャレンジしてみたいけれど、どうしても失敗を避けたいという場合は、楽天ポイントやTポイント、dポイントなど、企業が付与するポイントで投資をしてみてはいかがでしょうか。ショッピング等のポイントによる投資であれば、貯蓄に影響しません。
主なポイント投資サービス(2020年8月1日現在)
ポイントサービス | 証券会社・サービス会社 公式サイト |
---|---|
楽天ポイント | 楽天証券「ポイント投資」 |
Tポイント | SBIネオモバイル証券 |
dポイン | ドコモ「ポイント投資」 日興フロッギー |
証券口座や企業アカウントを開設する必要があり、その証券会社・サービス会社での取り扱い商品(投資信託や国内株式)への投資に限られるものの、ポイント投資であれば手軽に始められます。
STEP2:慣れてきたら投資額を増やす
投資の感覚に慣れて投入資金を増やし始めた時期におすすめの商品として、ETF(上場投資信託)もあります。
ETFは投資信託商品の仲間で、証券取引所に上場しているため取引時間中に自由に売買することができます。
購入価格が銘柄によって決まっているため投資信託のような一定金額での購入方法とは異なりますが、金融商品の運用にかかる手数料が投資信託に比べて安い傾向にあります。
数万円ほどと少し高い銘柄が多いため、投資資金を増やす段階の方におすすめの商品です。
NISA
非課税対象枠を設けているNISAでETFの利用が可能。
証券会社により取扱い商品は異なりますが、NISAは上場株式、投資信託など幅広い金融商品のなかから投資商品を選択できます。
NISA・つみたてNISAは、どちらも途中引出しが自由ですが、どちらか1口座の利用となります。
NISA | つみたてNISA | |
---|---|---|
非課税対象期間 | 5年間(ロールオーバーにより最長10年間) | 20年間 |
年間上限額 | 120万円 | 40万円 |
取扱い商品 | 上場株式(REITやETF等を含む)、投資信託など | 一定の要件を満たす投資信託商品 |
口座開設時期 | 2023年まで | 2037年まで |
途中の引出し | いつでも可 | いつでも可 |
※NISAまたはつみたてNISA、どちらか1人1口座
STEP3:資産運用の「目標」と年間投資額を決める
まとまった金額で資産運用する際は目標を設定し、その投資額が無理のない範囲であるかどうかを検討しましょう。次の(4)で目安となる割合をご紹介します。
住宅の購入資金、子供の教育費などの中期的な目標や、老後の資金といった長期目標を決めていき、目標金額や1年間の投資額を確かめます。
例えば、10年間の投資で1,000万円貯める場合、年2%の予想利回りなら年間約90万円を投資に向けることになります。投資の資産については金融庁「資産運用シミュレーション」のページをご参照ください。
目標時期 | 目標額 | 想定利回り(年率) | 毎月の投資額 | 年間投資額 |
---|---|---|---|---|
10年後 | 500万円 | 2% | 37,000円 | 約45万円 |
10年後 | 1000万円 | 2% | 75,000円 | 約90万円 |
20年後 | 1000万円 | 2% | 34,000円 | 約40万円 |
20年後 | 2000万円 | 2% | 68,000円 | 約82万円 |
※金融庁「資産運用シミュレーション」のページ、「毎月いくら積立てる?」にて試算
「想定利回り(年率)」は自由に調整して試算することができます。上の表の場合、つみたてNISAの平均利回りが1%台~3%台であることを参考に、2%として試算しています。
STEP4:資産運用割合が適正か判断する
投資する金額が判明したら、その額が多すぎていないかを検討してみましょう。
最初にお話しした通り、日本の個人の投資割合は平均で18.8%ですが、これはあくまで平均値。投資に使うべきではない貯蓄もあり、年代により想定すべきリスクもあります。
以下の例は、投資の割合を(100-年代)%で目安とする方法です。
投資 | 貯蓄 | |
---|---|---|
30代 | 70% | 30% |
40代 | 60% | 40% |
50代 | 50% | 50% |
60代 | 40% | 60% |
若い世代ほど収入を得られる期間が長く残っているため、損失への耐性が高いといえます。
同じような投資行動では年齢の上昇とともにリスクも高まるため、次第に「年代=貯金の割合」を意識していきましょう。
また、どの世代にとっても、いくらまでの損失なら許容し、いくらを下回ったら回収すべきかについて検討しておきましょう。割合を減らす際、株式などのハイリスク商品から、ミドルリスク/ローリスク商品へ移行する考え方もあります。
個人の「性格」から考える資産運用の選択
さいごに、性格の面から資産運用方法を考えてみましょう。資産を動かすのも個人の判断。お金の使い方にも性格が出やすいといわれています。ロボアドバイザーの利用や、iDeCoの活用などについて見てみましょう。
投資方法を決めかねている人は「ロボアドバイザー」の活用も
ロボアドバイザーは、個人に合うポートフォリオ(資産配分)や運用についてのアドバイスを提供するサービスです。投資まで一任できるタイプもあり、手数料も、1%ほどの低率で設定されています。
ロボアドバイザーサービス | 最低投資金額 | 特徴 |
---|---|---|
楽天証券「楽ラップ」 | 1万円 | 手数料:年率1%未 |
ウェルスナビ(wealthnavi)公式 | 10万円 | 手数料:年率1% 預かり資産2700億円・32万口座を突破し、国内トップ |
THEO(テオ)+docomo | 1万円 | 手数料:預かり資産の0.65%〜1.00% |
WealthNavi for ネオモバ | 1万円 | 手数料:年率1% |
WealthNavi for ソニー銀行 | 10万円 | 手数料:年率1% |
※2020年8月1日現在
投資傾向に関する無料診断やシミュレーションのページもあります。
・ウェルスナビ(wealthnavi)公式、WealthNavi for ネオモバ、WealthNavi for ソニー銀行共通…「無料診断」ページ
・「THEO」無料診断・シミュレーション ページ
投資に熱中しやすいという場合はiDeCoの活用も
投資に熱中しやすい、利益が出るとすぐ使ってしまいそうだという人は、個人型確定拠出年金iDeCoを利用してみてはいかがでしょうか。
利用枠は決して大きくはないのですが、iDeCoであれば基本的に60歳まで引き出すことができないという強制力があります。
運用方法を分散することも投資のコツです。運良く利益が出た時も、アップダウンを想定して基本の枠を忘れないようにしましょう。
自分で試行錯誤したい、楽しみたい人は株式投資にチャレンジしてみよう
自分で試行錯誤しながら、楽しんで投資に取り組みたいと考えている人には株式投資がおすすめです。
株式投資では、他の投資方法と比べて銘柄の選択肢が圧倒的に多いのが特徴です。銘柄を見極める際も、成長性を重視するのか、配当金の多さを重視するのかなど、さまざまな選び方があります。
さらに中長期的な投資だけではなく、デイトレードのような短期投資で利益を狙うことも可能です。
利益を出すためには豊富なスキルや経験が必要なので、難易度はやや高いと言えるでしょう。
しかし、投資戦略の自由度が高いため、情報収集や分析が苦にならない人にとっては、前向きに取り組めるはずです。
まとめ
貯蓄と投資の適正な割合は個人の収入・資産の状況によりますし、リスクに対する考え方も人それぞれでしょう。
目標から算出した投資金額が使ってよい範囲なのかどうかを確認しましょう。また枠内の金額であっても、リスクの面で許容できないと気づいたら投資割合・金額を引き下げるべきだといえます。
資産運用の際には、投資の目的と資産状況から納得した内容で着実に取り組んでいくことをおすすめします。