年金制度は、平成16年(2004年)に大きく改正されました。
この制度改革は、100年安心年金と言われています。
大きな改正点を以下に示します。
- 上限を固定した上での保険料の引上げ
- 基礎年金国庫負担の2分の1への引上げ
- 保険料積立金の活用
- 給付水準を自動調整する「マクロ経済スライド」の導入
この内、保険料の引上げと基礎年金国庫負担の2分の1への引上げは実現しています。
保険料積立金の活用とマクロ経済スライドについては、今回(平成28年度)も見直しが行われます。
この見直しに加えて、以下に示す内容が取り上げられています。
- 短時間労働者への被用者保険の適用拡大の促進
- 国民年金第1号被保険者の産前産後期間の保険料の免除
- 年金額の改定ルールの見直し(マクロ経済スライドの見直しを含む)
今回(平成28年度)の年金制度の改定は、持続可能性を高め、将来の世代の給付水準の確保等を図ることを主旨として行われます。
2014年の年金財政検証
大きな年金制度改革は、5年ごとに行われる財政検証の結果に示された課題に元ずいて行われます。
今回の改定(平成28年度)は、2014年の年金財政検証の結果によります。
2014年の年金財政検証は、大きく以下に示す7つの項目が示されています。
- 公的年金の財政は緊急の課題というほどではない
- デフレ下でのマクロ経済スライドの休止は将来の給付水準のカットを大きくする
- マクロ経済スライドの発動の環境が整い発動すると年金財政の健全化が大きい
- 年金財政の健全化は年金水準の実質的切り下げが必要
- 国民年金財政が元々脆弱
- 国民年金の財政健全化に貢献するような施策が必要
- 出生率の向上、女性や高齢者の労働参加が進むと年金財政基盤が向上
まとめると、年金財政の向上は、以下に示す3つの見解を示しています。
- マクロ経済スライドを確実に実施
- 国民年金の脆弱性
- 女性や高齢者などの厚生年金の拡充
国民年金の脆弱性への対策については、今回の改造に含まれていません(今後の課題です)。
マクロ経済スライドは、平成16年(2004年)の改革法で取り入れられましたが、初めて実施されたのは翌年の2015年です。
マクロ経済スライドが実施されないので、平成16年に比べ年金給付水準が増加しています。
- 2004年:現役世代給与水準は59.3%
- 2014年:現役世代給与水準は64.1%(2004年試算値は54.0%)
賃金・物価スライド
平成16年の改定時前は、物価スライドがありました。
この当時の物価スライドは、物価にあわせて年金支給額を変える仕組みです。
基本的にインフレ時の対応で、インフレにより年金額の価値を維持する仕組みで、インフレ時には年金受給額が増えます。
賃金スライドは、賃金にあわせて年金額を変える仕組みで、基本的に賃金が下がると年金受給額が減ります。
今回の平成28年度の年金改定から賃金スライドが優先されることになりました。
物価が下がるから賃金が下がると良く言われますが、経済学的に言うと賃金が下がるから物価が下がるのが正しいことです。
ただ、賃金と物価には比例関係があるのではなく、賃金が上がっても物価が上がらない(新技術による生産性の向上など)ケースや賃金が上がらなくても物価が上がる(原油価格の高騰など)ケースがあります。
賃金が年金(厚生年金)保険料に反映されることから、賃金スライドが優先されるのは現実的と言えます。
賃金・物価スライドの上昇率がマイナスの場合は、マクロ経済スライドは実施されません。
このため、デフレ時には年金支給額は賃金・物価スライドで想定されるレベルよりも高くなります。
今回の改定で、マクロ経済スライドの実施が必要なる原因となりました。
マクロ経済スライド(改定ルール)の見直し
マクロ経済スライドの見送りによる年金給付水準の増加から、目標水準への引き下げ(最低でも現役世代賃金水準の50%は下回らない)に向けて、以下に示すようにマクロ経済スライドが見直されます(厳密に実施)。
現行
マクロ経済スライドは、賃金・物価の伸びが大きいとにその伸びを調整する仕組みです。
このため、賃金・物価が下落(デフレ)時には実施されません。
- 年金額の改定率は物価上昇率からスライド調整率を差し引き
- 物価上昇率が1%未満ではマクロ経済スライドの効果がない
- 年金改定率は最低0でマイナスはなし(前年度より下がらない)
改定
マクロ経済スライドの改定ルールが見直されます。
- キャリーオーバー:未調整分の持ち越し(2018年4月から)
- 賃金の変動にあわせ年金額を調整(マイナスなら年金額を減額、2021年4月から)。
今まではデフレ時でも年金額は前年度に比べ少なくなりませんが、今後、賃金下落時には引き下げになる可能性があります。
基本的に年金の価値は維持されますが、物価上昇時の伸び率の低下(価値の減少)に比べ、分かりやすいだけに受け入れ難いかもしれません。
女性や高齢者などの厚生年金の拡充
誰もが20歳〜60歳未満まで年金に加入しますが、より年金財政基盤を向上させるため、保険料の高い(労使折半)厚生年金への加入が拡充されます。
現行は501人以上の民間企業の従業員と公務員が厚生年金に加入しています。
これを以下に示すように、拡充されます。
- 500人以下の企業にも拡大
- 短時間労働者への適応を拡大
501人以上の企業は、平成28年10月からパートなど短時間労働者へ適用されています。