年金制度は5年ごとに財政検証が行われており、最新の検証「2019年財政検証(国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通し)」の結果は、2019年8月27日に厚生労働省から発表されました。
財政検証は、今後財政均衡期間の100年間にわたり現役男性の平均手取り収入額に対する年金受給額の割合が50%を維持できるかを検証しています。
これは、2004年の年金改革法によって5年に1度の割合で実施することが決まっています。
2019年の財政検証
2019年度所得代替率
所得代替率は、受給する年金額を現役男子の平均手取り収入額で割った値です。2019年度所得代替率は、以下の様になっています。
- 夫婦2人の基礎年金:13.0万円
- 夫の厚生年金:9.0万円
- 現役男子の平均手取り収入額:35.7万円
- 2019年度所得代替率:61.7%
将来の所得代替率
2019年財政検証は、ケース1からケース6までの6つの経済成長率を仮定して将来の所得代替率を試算しています。
ここで用いられる将来とは、ケースごとに2047年度(ケース3)から2043年度(ケース5・6)になります。
ケース | 所得代替率 | 経済成長率 | 賃金上昇率 |
---|---|---|---|
Ⅰ | 51.9% | 0.9% | 1.6% |
Ⅱ | 51.6% | 0.6% | 1.4% |
Ⅲ | 50.8% | 0.4% | 1.1% |
Ⅳ | (50.0%) | 0.2% | 1.0% |
ⅴ | (50.0%) | 0.0% | 0.8% |
Ⅵ | (50.0%) | ▲0.5% | 0.4% |
試算を見ると、2019年度所得代替率の61.7%を将来とも維持していくのは困難です。
ケースⅠ〜Ⅲは、経済成長と労働参加が進むケースで所得代替率50%を維持できる試算です。他方、経済成長や労働参加が低いケースⅣ〜Ⅵでは所得代替率50%を下回ります。
- ケースⅣ:2045年度に50.0%を割り込み、2053年度に46.5%
- ケースⅤ:2044年度に50.0%を割り込み、2058年度に44.5%
- ケースⅥ:2044年度に50.0%を割り込み、2052年度に年金積立金が枯渇
年金給付の水準は「所得代替率の50%以上を維持する」ことが法律で定められているため、 経済成長と労働参加が所得代替率50%を維持するために重要です。
経済成長率と賃金上昇率
将来の所得代替率を推測する上で、必要な経済成長率と賃金上昇率を紹介します。
経済成長率
経済産業省通商2018白書によると、経済成長率は以下のようになっています(2018年と2019年は予測です)。
国 | 2017年 | 2018年 | 2019年 |
---|---|---|---|
世界 | 3.8% | 3.9% | 3.9% |
日本 | 1.7% | 1.2% | 0.9% |
米国 | 2.3% | 2.9% | 2.7% |
ドイツ | 2.5% | 2.5% | 2.0% |
中国 | 6.9% | 6.6% | 6.4% |
ASEAN5国 | 5.3% | 5.3% | 5.4% |
2019年を見れば、財政検証のケースⅠと同じ成長率になっていますが、2020年の経済成長率は、 2019年の消費税増税により低下が予測されています。
新型コロナウイルスによる肺炎の影響は、2020年の6月時点では予測できませんがさらなる低下が予測されます。経済への影響が短期に解消されることを期待する次第です。
新型コロナが及ぼる経済への影響については下記記事で触れています。
賃金上昇率
経済成長により現役世代の給与が増加すれば、年金受給額の増加が期待できます。賃金上昇率は、厚生労働省平成28年賃金構造基本統計調査によると以下のようになっています。
年 | 男性賃金 | 前年比増減率 |
---|---|---|
平成9年(1997年) | 337.0千円 | 0.9% |
平成10年(1998年) | 336.4千円 | -0.2% |
平成15年(2003年) | 335.5千円 | -0.2% |
平成20年(2008年) | 333.7千円 | 1.2% |
平成25年(2013年) | 326.0千円 | -0.9% |
平成28年(2016年) | 335.2千円 | 0.0% |
厚生労働省平成28年賃金構造基本統計調査と2019年財政検証で、同じ賃金上昇率を採用しているかは不明ですが、前年比増減率を見ると停滞していると言えます。
2014年財政検証の所得代替率
2014年財政検証は、ケースAからケースHまでの8つの経済成長率を仮定して将来の所得代替率を試算しています。
ケースAからEまでが労働市場への参加が進むケースで、FからHが参加が進まないケースです。将来とは、ケースごとに2044年度(ケースA)から2036年度(ケースH)になります。
ケース | 所得代替率 | 経済成長率 | 賃金上昇率 |
---|---|---|---|
A | 50.9% | 1.4% | 2.3% |
B | 50.9% | 1.1% | 2.1% |
C | 51.0% | 0.9% | 1.8% |
D | 50.8% | 0.6% | 1.6% |
E | 50.6% | 0.4% | 1.3% |
F | (50.0%) | 0.1% | 1.3% |
G | (50.0%) | ▲0.2% | 1.0% |
H | (50.0%) | ▲0.4% | 0.7% |
経済成長率が高いケースAよりも相対的に低いケースCが所得代替率が高くなっていますが、将来年(A:2044年,C:2043年)が違うのと試算数値が異なるからのようです。
これによると、経済成長と労働参加が進むケース(ABCDE)で所得代替率50%を維持できる試算です。他方、経済成長や労働参加が低いケース(FGH)では所得代替率50%を下回ります。
- ケースF:2040年度に50.0%を割り込み、2050年度に45.7%
- ケースG:2038年度に50.0%を割り込み、2058年度に42.0%
- ケースH:2036年度に50.0%を割り込み、2055年度に年金積立金が枯渇
このように所得代替率が50%を下回り年金積立金が枯渇する試算となっています。このような現状から「在職老齢年金制度の見直し」が注目されています。こちらについては次回お話しします。