私たちが得る所得には税金がかかりますが、実は、申告の方法によって税率が異なる場合があります。
この記事では、配当所得を得る場合などによく見る「申告分離課税」について、どのようなケースでどの申告方法を選ぶとお得なのかをわかりやすく解説していきます。
申告分離課税とは
申告分離課税とは、他の所得と区別して税額を計算する仕組みです。
給与所得や不動産所得など、複数の所得を合算して税額を計算する方法は「総合課税」と呼ばれます。
申告分離課税の税率は、課税対象額に関わらず一律「20.315%」で、内訳は次のようになっています。
- 所得税:15%
- 住民税:5%
- 復興特別所得税:0.315%
申告分離課税の対象となるのは以下の所得です。
- 利子所得・配当所得
- 退職所得
- 山林所得
- 先物取引の雑所得
次の所得については総合課税の対象となり、申告分離課税を選択することができません。
- 給与所得
- 事業所得
- 不動産所得
- 株式・建物・土地を除く譲渡所得
- 一時所得
- 雑所得
配当所得は課税方法を選べる
上場株式等の配当所得等(株式の配当金や、投資信託の分配金、債券の利子など)については、課税方法を以下の3つから選択可能です。
- 申告分離課税を選択して確定申告をする
- 総合課税を選択して確定申告をする
- 源泉徴収を選択する(確定申告は不要)
課税方法によって税率や確定申告の必要性に違いが生じるため、自分にとって有利になる方法を選択しましょう。
申告分離課税を選ぶメリット
申告分離課税には総合課税にはない「損益通算」というメリットがあります。
損益通算とは、年間を通じて損失が生じている場合、その損失を最大3年間まで繰り越すことができる制度です。その年の決算が赤字だった場合に翌年の所得から赤字分を引くことができるため、節税効果があります。
総合課税にするよりも分離課税で損益通算したほうが税金が安くなるケースもあるので、ケースバイケースで考える必要があります。
申告分離課税で税金がお得になる損益分岐点は「年間所得900万円」
日本の所得税率は、所得が高くなるほど課税率が上がる「累進課税制」です。一方、申告分離課税を選択した場合の所得税率は一律で「15%」なので、総合課税を選択した場合の所得税率が15%を超えてしまう場合は申告分離課税を選択した方がお得、ということになります。
下記は、総合課税と分離課税それぞれの場合の税率の早見表です。
課税所得合計 | 総合課税の税率 | 配当控除 | 配当控除を考慮した税率 | 分離課税の税率 |
195万円以下 | 5% | 10% | 0% | 15% |
195万円超~330万円以下 | 10% | 10% | 0% | 15% |
330万円超~695万円以下 | 20% | 10% | 10% | 15% |
695万円超~900万円以下 | 23% | 10% | 13% | 15% |
900万円超~1,000万円以下 | 33% | 10% | 23% | 15% |
1,000万円超~1,800万円以下 | 33% | 5% | 28% | 15% |
1,800万円超~4,000万円以下 | 40% | 5% | 35% | 15% |
4,000万円超 | 45% | 5% | 40% | 15% |
総合課税を選択した場合は「配当控除」が適用され、所得税額から「配当所得の金額の10%」が減額されます。このため、総合課税制度を選択した場合の税率は「総合課税の税率」ではなく「配当控除を考慮した税率」を見て下さい。
分離課税制度を選択した場合配当控除は受けられなくなりますので、このことも踏まえて最終的な税額が安くなる方を選択しましょう。
結論としては、総合課税の年間所得が「900万円を超える」場合、分離課税を選んだほう所得税はお得になるということです。
なお、住民税については、所得がいくらだとしても、分離課税方式を選択した方が安くなります。
総合課税よりも分離課税のほうが、税率が低く設定されているからです。
上場株式配当所得を総合課税で申告した場合、税率は1,000万円以下については7.2%(配当控除を加味した税率)、1,000万円超については8.8%ですが、分離課税の場合は一律「5%」となっています。
ただし、「所得税は総合課税」「住民税は申告分離課税」のように、別々の課税方法を選択することはできないため、総合課税の年間所得が「900万円を超える」場合は分離課税を選ぶ、とおぼえておけばよいでしょう。
まとめ
株式から配当金を得ている場合、申告分離課税、源泉分離課税、総合課税から申告方法を選ぶことができます。
ここで考えるべきポイントは、「税率」と「損益通算」の2点。
ケースバイケースではあるものの、一般論としては「所得が900万円以下なら総合課税を検討」「大きな損失が出そうな場合は申告分離課税で損益通算」がベストな選択といえるでしょう。